トップリーダー養成塾(TL塾)OBインタビュー、今回はオフィス・公共空間などのプロデュースを手掛けるオフィス家具大手の株式会社イトーキ先端技術研究所長の秋山恵さん(ニックネーム:あきやん)です。新型コロナウイルスの流行に伴って日本企業の働き方が劇的に変わることを余儀なくされる以前から、これからの時代のオフィスのあり方や人々の働き方の変化が仕事のメインテーマだった秋山さん。2019年度TL7期での半年間を振り返ってもらいながら、いわゆるwithコロナ時代に求められるスキルやマインドとTL塾での経験との共通項に話が及んでいきました。(聞き手:いろはこ運営事務局 木村麻紀)
自分から変わる機会を活かしたい
秋山さんの社会人生活の始まりは、商社のイトーキに対して、イトーキクレビオという製造会社の大阪府内の工場内での商品企画からでした。約15年在籍した間には、デスク、テーブル、金庫、キャビネットやデザイナーとのコラボレーション案件も経験しましたが、販売会社であるイトーキと製造会社のイトーキクレビオとの合併を機に、東京に拠点を移します。
「金庫から始まり、オフィスデスクやテーブルなどの開発に携わりましたが、ICTを用いたソリューションの方がで社会やお客様に貢献できると考え、既存のプロダクト開発での商品企画を離れて、開発、販売推進も含めてICTソリューション推進に携わることを選びました」(秋山さん)
その後は、東大とのベンチャーとともに開発し、グッドデザイン賞も受賞したLANシートを世に送り出し、その過程で販売推進など新たな職務も経験。ICTソリューション開発推進を経て、現在は先端技術研究所長として2030年のオフィスや教育のビジョンを描きながら、製品やサービスのモックアップを進めています。
TL塾入塾当初は、ICTソリューション開発でサービス開発と販売推進を担っていましたが、安定した状況ではあるものの、主体的に変⾰する意識は乏しかった、と秋山さんは振り返ります。
「どちらかと言うと、環境の変化に伴って自分自身も変化している感じでしたが、初回の合宿に参加してみて、今度は自分から変わる機会として塾を活かしたいと思うようになりました」
こうして、秋山さんの半年間が始まりました。
自分なりのリーダーシップをより意識するように
秋山さんにとって塾での学びでとりわけ参考になったのが、コーチングとストレングス・ファインダー(SF)だったと言います。
「まつかつさん(塾長・松岡)が日ごろやっていることを教えてくれているので、とても実践的でした。特に、コーチングを通じて傾聴することを身につけられました。アドバイスはダメで、気持ちを汲むことの大切さを学びましたね」
「ストレングス・ファインダーの良いところは、下位の資質、短所を何とかしようとしなくていい、という点だと思います。僕自身、役職上位者になれば戦略立案しなくてはならないと思っていましたし、そのように考える人が多いと思いますが、それができる人に役割を振ればいい、と考えられるようになりました」
SFを知って以降、秋山さんはチームメンバーそれぞれの特性を意識しながら、それぞれの得意を活かしたチーム運営を今までにも増して心掛けるようなったそうです。
「考えすぎて踏み出しにくいメンバーに対しては、一緒にどんどん進めていこうと働きかけています。完璧なものを仕上げなければと抱え込みすぎるのはもったいない。6,7割の出来でもいいから出していこう、と。うまくいくかどうかはこれからですが、SFを意識することで、色々なリーダーのスタイルがあることに気づかされました。この気づきをもとに、これからも若手にチャンスを与えたいですね」
TL塾でのチーム発表も、SFの醍醐味を感じられた経験になったようです。
「(塾でのほかのチームメンバーがどう思っているか分かりませんが、笑)それぞれのSFが分かった上で役割分担できて、年齢も立場も職種も違うメンバーでうまくできて、何より楽しかったです。同じ会社や組織の中でのメンバーだと、同じ土台を共有している分『まあ、そうなるよね…』という結論になりがちですが、メンバーが多様な文化を持ち寄る環境だと『そうなんだ!』という気づきを得られましたね」
完全リモートワークから約2カ月、描いたマインドマップは100枚超に
TL塾7期の2月の最終発表会から間もなく、秋山さんは週に1~2回の出社をのぞきリモートワークの生活が始まり、3月下旬からは完全にリモートワークに入りました。ウェブ会議にも慣れたこの間、秋山さんは100枚以上のマインドマップを書いているそうです。
実は秋山さん、TL塾7期の期間中は他の同期の塾生に比べてあまりマップを書いてきませんでした。それをもちろん知っている松岡と下家(そして私も)は、秋山さんからのこの報告に驚きを隠しきれませんでした!
「特に、4月、5月に入ってからですかね。今、同時進行で10個ほどプロジェクトを持っていますが、プロジェクトごとに毎日複数枚描いています。打ち合わせの際は、箇条書きでメモを取るよりもマップのほうが頭に入ってくるんですよ。僕は手書きマップです。手書きのほうが、文字の大きさなどからも、描いていた時の心の強弱が見えるんです」
新型コロナウイルス流行の影響でリモートワークとなり、いやが応でも一人でまずは考え出すプロセスが今まで以上に求められるようになっています。TL塾での成果が、まさに活かされる局面です。
TL塾は人生ビジョンを考えるための場
TL塾では毎回、最初にそれぞれの塾生が成し遂げたいことを表現するVISIONマップというものを描いてもらいます。秋山さんは仕事の延長線上で、未来のワークスタイルを表現したものを描きましたが、他の塾生の中には子どものことや近い将来やってみたいことなどプライベートについても描いている人がおり、自分にはその部分が足りないと感じていたといいます。
しかし、TL塾7期の期間中に行った年始VISION策定イベントにも参加し、その際に少し先のありたい自分について描けるようになったことに気づいたそうです。
「TL塾とは、自分がどうなっていきたいかという人生ビジョンを考える場ですね」
今回の新型コロナウイルスの流行は、少なからずの私たち日本人、日本企業の働き方の慣行や考え方を大きく変えました。緊急事態宣言が解除されて少しずつ日常が戻っていくと思われますが、これからの時代の働き方や働くことの意味や意義を考える上で大きなきっかけとなることでしょう。いわゆるwithコロナ、ポストコロナ時代のワークスタイルは、秋山さんが今、ど真ん中で取り組んでいるテーマでもあります。
「コロナ以前から考えていたことでもありますが、個人でもできる作業のためにオフィスに集まる意味はなくなりますね。オフィスは、人間関係の構築、それによって考え方や文脈共有するためのラウンジ的な役割を求められるでしょう。ソーシャルディスタンスが求められますし、個人席もいらなくなるでしょう。オフィスは今、会社のため、会社の利益のためという目的で成り立っていますが、これからはどれだけオフィスに付随する会社なりコミュニティなりへの帰属意識を高められるかが問われてくると思います」
変化する働き方、人間が集うことの意味の問い直し—―。TL塾ではこうした社会環境の中で必要なるチカラも養える場だったと、秋山さんは振り返ります。
「塾ではとにかく、答えのない問いに対して探求し、アウトプットを求められます。アウトプットは、決まった形式でなくていい。さらには、問いそのものを考えさせる機会もたくさんありました。これらはまさに、これからの時代を生きる私たちに求められることだと思うのです」
だからこそ、たくさんの人たちにTL塾を経験してほしい。どんな境遇の人たちに受講を勧めたいか、最後に聞いてみました。
「まずは、30代前半ぐらいで2~3人の少人数チームを率いるようになった人ですね。どのようなビジョンをもって、どのようなチームにしたいかを考えられる良い機会です。次に、40代後半から50代の人たちを中心に、管理職になって以降の人生ビジョンを考えるべき人たちです。この2つのタイプの人たちが自由な雰囲気の中で交流できることは、TL塾の最大の魅力ですね」